※この記事は若干過激な内容となっています。「痛み」とか「血」とかの単語に弱い方は見ない方がいいかと思います。



ほぼ寝たきりの高齢の男性患者さんがいらっしゃいました。
陰茎の横じわが何カ所もあかぎれのように切れて、血液と浸出液が滲んでしまいました。
陰茎全体に皮膚も黒ずんで、あかぎれのところから半ばかさぶた状になって、もはや健康な皮膚とは言えない状態です。

お年寄りは皮膚トラブルが起きやすいです。脂分水分が少ないですから。

ドクターが診察し、毎日綺麗に洗ってワセリン塗布との指示が出ました。

その患者さんは殆ど寝たきりなので、陰洗だけでなく全身を洗わなくてはならないので、大抵ナース2人か3人で処置をしました。

場所が場所だけにとても痛そうで、きっとじっとしていても痛いだろうに、触ったり洗ったりされれば尚痛かろうと思うと、私たちも「痛そうだね~」と洗う手も慎重になってしまいます。にんじんや大根を洗うみたいにがしがしは洗えませんでした。実際患者さんは「痛い」と言葉は発しませんでしたが、洗っていると足の先や手の先がぴくぴくするので、口がきければ「痛い」と叫びたかったのだろうと思います。

毎日処置を実施しましたが、状態はなかなか改善しませんでした。



そんなある日。
とてもがさつなA子さんと私はコンビで、その患者さんの陰洗をやりました。

A子さんは、患者さんの陰茎を見るなり
「なにこれ。きったねー!」
と叫びました。

患者さんは寝たきりの人ですから何も言いませんが。聞こえていなければいいなと思いました。聴覚は最後まで残るって言いますからね…。

A子さんは「きったねー」を連発しながら、陰茎をがっしがっしと泥付きゴボウを洗うかのごとく遠慮会釈なく洗いました。
弱く黒ずんでいた皮膚がずるむけになって、陰茎は皮を剥がれたいなばの白ウサギのように真っ赤になってしまいました。

「ちょっと、やりすぎたかな」
てへ、とA子さんは笑いました。
悪い人ではないのは同僚なので知っていました。
がさつな人なのも既に知っていました。
でもあらためて(なんてがさつな人なんだ)とは正直思いました。



でも。

患者さんの陰茎はドラマチックに回復しました。

悪くなっていた皮膚を遠慮会釈なくAさんがこそぎ取ったのが良かったんでしょう。
はからずも効果的なデブリーフィングになっていたのでしょうね。
「可哀想」「痛そう」と言って優しくしか洗えなかった、私を含めた他の看護師より、彼女は優秀な看護師でした。結果を出しましたから。

ちなみにA子さんは摘便も得意です。

摘便は、肛門に指を突っ込んでぐりぐりするので、痛いし気持ちも悪いしで、患者さんはとても嫌がります。
でもこれは必要な処置なのです。
便を何日も出ないままにしていては、肛門痛どころでない重大な病気になってしまいます。
下剤を使ったり座薬を使ったり、浣腸を行なったり…それでも出ない(自力で出せない)患者さんには、必要な処置なのです。

A子さんは誰よりも情け容赦なく、ぐりぐりと摘便をします。
なので奥深くの便塊までも見事に掻き出します。

A子さんは、優れたナースだと、思います。