前回からの続きです。

タイトルにパソコンを冠しつつ今回もワープロ専用機の話が続きます。すみません。

1980年代半ば。
その方が自分にメリットが大きいと思い、パソコンでなくワープロ専用機を買いました。



初めて買ったワープロ専用機は、キャノンのキャノワードでした。
あまりに昔のことで記憶が曖昧だったので、キャノンのウェブサイトで確認してきたら、品名がミニα10。価格が158,000円となっていました。
もっと高かった気がするのは、恐らくオプションで買ったゴシックフォントが高額だったからだと。
そう、このワープロ専用機には書体はデフォルトで明朝体しかありませんでした。
書体を増やすには別売りのフォントパックを買う必要がありました。
でもそれはその時代はそういうものだったのでいいとして。

結論から先に言いますと。

この機械は全く実用に耐えませんでした。

キャノンさんの名誉のために書き添えますと、キャノンさんだけでなくこの時代の家庭向けワープロ専用機全般が似たようなものだったと思います。結局まだ時代の技術が実用レベルまで育っていなかった。


以下にこの機械の駄目だった点を思いつくまま箇条書きにしてみます。

・重い
オーブントースターのようなかたちをしていました。
取っ手が付いていて、自由に持ち運べることを謳ってました。
でも重量は10㎏。
当然まだ当時私はBBAではなかったですけど。それでも気軽にヒョイヒョイ持ち運べる重さではなかったです。

・ディスプレイが暗い
液晶モノクロディスプレイでした。
バックライトはありませんでした。
当然ちょっとでも暗いところでは見えません。
電気ポットや炊飯ジャーの液晶表示は時々見るだけですから、バックライトが無くても別にいいかなと思いますけど。
ワープロの場合はじっと画面を見続けて作業をするわけですから、画面が暗くて見にくいのは結構致命的でした。

・ディスプレイの表示文字数が少ない
うろ覚えですが、1度にディスプレイで見れるのは30字×10行程度だったと思います。
このマシンより少し以前のものは3行くらいしか表示されないのも普通でしたから、「10行見られるなんてすごいじゃん」と買う前は思ってました。
でも、ご想像の通り、10行ではページ全体のレイアウトが把握出来ません。
結局一旦プリントアウトして全体像を眺め、調整をしたら再度プリントアウトして眺め…という感じで、1枚の印刷物を仕上げるのに何回も何回も仮刷りをしなくてはなりませんでした。

もうね。
手書きのが早えよ。

でもこの時代、多分みんなこんな風に手書きより手間暇を掛けてまで、お誕生日会のお知らせチラシだの年賀状だのをワープロ専用機で刷っていたんですよ。
「手書きでない、活字や写植みたいなきれいな文字で文書がプリントアウト出来る」っていうところに価値?があった。
おうちで年賀状が刷れる『プリントゴッコ』とか、テープに印刷出来る『テプラ』とか、あの時代のワープロ専用機って、そういうものの延長線上というか、上位互換というか、そんな位置づけだったような気がします。

・印字が汚い
再びキャノンさんの名誉のために書き添えますが、当時の家庭用ワープロ専用機の中では、私が買ったキャノワードさんはトップクラスの印字品質でした。
だからキャノワードさんを買ったわけですし。
当時印字品質を表すのに、24とか48とかいう数字が使われていました。
24というのは24×24個の、48は48×48個の点々を1つの文字に割り当てられますよと言う意味ですね。
当然点々の数が多いほどガタツキのないきれいな印字が出来ます。
キャノワードさんはこの数値が52×52だか56×56だったと思います。当時は48くらいが相場だったと記憶しています。

だからね、キャノンさんが悪いわけではない。
この時代、まだトゥルータイプフォントが無かったのです。

24だろうが52だろうが、拡大すれば大差なくギザギザのお見苦しい字になります。
お見苦しくても読めればいいですが、あまりにギザギザだともう人間の脳には文字と認識出来ません。ただの図形です。
拡大機能は搭載されていましたが、そんなわけで実質使えるのはせいぜい2倍角まででした。

※ここで一点補足しておきます。
現代の感覚だと
「なんでそんなに印刷することにこだわるの?」
と不思議に思うかもしれません。
現代ではそもそもプリンタは必須な機器ではないですよね。
作った文書も、画像も動画も、ネットを介して直接相手に送れますし。
どうしてもプリントアウトが必要なら、コンビニでプリントサービスを使えばいいですしね。
でも1980年代には、ネットもプリントサービスも無かった。
作った文書を人に見せるには、互換機を持っている人にならフロッピーディスクでデータとして渡すか、持ってない人にはプリントアウトして見て貰うしか、手段が無かったのです。

・動作がのろい
キャノワードさんにはカラー印刷機能があり、カラーイラスト集が内蔵されていました。
それらを使って美麗な年賀葉書などが印刷屋に頼まずともお手軽に出来る──ということになってはいましたが。
実際にはその機能は使い物になりませんでした。
キャノワードさんは頭脳がとても貧弱だった為、少し手の込んだレイアウトやイラスト多用のものを印刷しようとすると処理速度が追いつかず、印刷開始を押してから実際印刷が始まるまでに10分位掛かりました。幾ら私が暇人でも、葉書1枚刷るのに10分待ってはいられませんでした。 

・日本語処理能力が悪い
具体的には辞書機能、変換能力が悪かった。
これが、キャノワードさんが実用レベルでなかった1番の理由です。
重いとか画面が暗いとか印字が汚いとかは、まあワープロの枝葉でしょう、かなり大きな枝葉だけれども。
ワープロの根幹はいかにストレス無く文章を入力出来るかという点でしょう。
そこが、駄目だった。

キャノワードさんに限らないけど、当時のワープロ辞書にはAI変換なんて在りませんでした。
ただ並んだ同音異字の単語から前回選択したものを候補の最初に出すよう並び替えるだけのものでした。
それでも個人が使う単語は偏りがありますから、それなりに使えないことはなかったです。

しかし。
驚くなかれ、キャノワードさんにはカタカナ辞書がありませんでした。
つまりカタカナ語は一切知りませんでした。
キャノワードさんには自ら単語を覚えてくれる学習機能なんてありませんでしたから、知らない語は所有者が1つずつ辞書登録してあげなければなりませんでした。
カタカナ語の数は膨大です。頑張って個人が百個や千個登録したところで、焼け石に水でした。



――悪いことばかり書き連ねましたが、最後に。
それでも私にとって、キャノワードさんには存在価値があったことは書き添えておきます。
・文書がフロッピーディスクという小さな物に収められる
・パスワードを付けて文書が保存できる
点において、キャノワードさんは紙製の日記帳やノートブックにまさっておりました。