昨年。母は肺炎で入院しました。

肺炎は治り退院が決定。…しかし体力がすっかり衰えていて、自力での歩行、立位保持が困難でした。

そんな状態で単身で実家で暮らすのはどう考えても不可能です。私は自分のマンションに連れて帰りました。
入院以前に何度か訪ねてきたことがあったので、母にとって私のマンションは全くの初めての場所ではありません。しかしさほど長居したこともなく、ほぼほぼ初めての場所に近い感覚だったでしょう。
高齢者は環境が変わるとぼけが促進されることがある…みたいな話を聞いたことはありました。そうならなければいいなと思いました。


私の危惧は当たりました。
「今は昼? 夜?」
母は聞くようになりました。時間の感覚が分からないのです。特に朝と夕刻は混乱するようでした。当然、日にちや曜日は分かりません。

…ああ、ぼけちゃったなあ。
でももう歳だし、しょうがないか。
父みたいに攻撃性がないから在宅でみれないわけじゃないし。まあいいか…。

そんな風に思いました。
薬剤性以外に一過性のぼけがあるとは思わず、一旦ぼけたらもう治らないのかと思ってました。

当初、母のために準備してあった部屋には最低限のものしかありませんでした。何しろ急だったので、万全の準備はできませんでした。寝床とテーブルと棚。それだけです。殺風景です。
父も入院していましたが、あまりに攻撃性が高いため強制退院させられることになり、受け入れてくれる施設探しに私は毎日奔走しなくてはなりませんでした。正直母にかまっている時間がなかったです。
なので少しずつ、本当に少しずつしか、母の部屋を整えてあげることが出来ませんでした。

テレビを置きました。
枕元に電話を置きました。
カレンダーを壁に掛けました。
時計を起きました。
温湿度計を起きました。
タンスを置きました。

…恐らくそうやって何とか人の部屋らしくなるまでに、2、3週間掛かったと思います。

気付いたら、いつの間にか、母はちゃんと昼夜が分かるようになっていました。

勿論高齢ですからとっさに曜日が出てこなかったり、知り合いの名が出てこなかったりはありますが、あのぼけぼけした感じはなくなりました。
時間の経過で自然に治ったのか、カレンダーや時計が身近にあることが良かったのか、理由は分かりません。