それなりに長く生きていると、1つや2つは変わったアルバイト体験もあります。

漫画家のアシスタントは、中でも毛色が変わった仕事だと思います。

今は漫画もデジタルで描く時代でしょうが、私がバイトをした頃はほぼアナログ作業で、なので連載を抱えたりしてる漫画家さんは、沢山のアシストさんが必要でした。

漫画家のアシストって何するんだ? と思うかもしれませんが、まあ、色々です。
掃除や買い出し、食事の支度といった、直接漫画を描くことに関係の無い仕事をすることもあります。

アシストさんにもキャリアの長い人、短い人いますので、
買い出し等の雑務<消しゴム掛け<べた塗り<フラッシュ等の効果線<背景<脇キャラ<メインキャラ…みたいな感じで、最初は雑務からです。

で、漫画家のアシストという仕事を体験して、しみじみ思ったのは、
「漫画家って心身を消耗する仕事だな」ってことです。
その後私は精神科ナースという職業に就くわけですが、あの漫画を制作してる現場の雰囲気というのは、どちらかと言うと、精神科の患者さんの集団に近いものがあります。

〆切がある仕事です。
漫画家さんがアイデアを練ってる間はアシスタントを呼ぶ必要はまだ無いですから、逆に言うとアシストが呼ばれる局面は、既に〆切が近くいわゆる「修羅場」な状況のわけです。
みんなで泊まり込んで、2日3日と徹夜に近い状況で作業をするわけです。
傍らにはもう担当の編集さんが来て、原稿が上がるのを待っています。上がったらその場でチェックして印刷所に持って行くためです。そうしないともう雑誌の発売日に間に合いません。
…という雰囲気の中で黙々と作業していると。
誰か1人が突然笑い出します。
そうすると他の人も笑い出します。
全然おかしくも楽しくも無いんですけど、何故か笑いが止まりません。

徹夜とストレスによる一種のランナーズハイかもしれません。


そう言えば、先輩アシストさんからこんな話を聞きました。
某大御所漫画家さんがアシストさんに原稿を渡して、背景部を指さし
「ここ、ピンクの点描ね」
と指示したそうです。
ちなみにカラー原稿ではなく白黒原稿です。
或いは明るい感じとか落ち着いた感じ…という指定の代わりにピンクという表現を使ったのかもしれませんが、いずれにしろ頼まれたアシストさんは
「ピンクの点描ってどんなんだろう」
と悩みながら、普通に点描を打ち、先生に見せたそうです。
「これでいいでしょうか?」
見た先生は言ったそうです。
「あら。ピンクじゃないわね」



非常に貴重な体験ではありました。
面白いし、エキサイティングな仕事ではありました。
でも長くやる仕事ではないな、少なくとも自分は無理だなと思いました。