外科の名医と言えば、ブラックジャックのようにオペが上手い先生でしょうか?
内科の場合は診断(みたて)が上手い先生を言うのでしょうか?


では精神科の名医とは? と考えますと、自分は、
お薬調整の上手な先生
のことかと思います。

上手なお薬調整とは何かというと、
・精神症状には効いてる
・でも体には副作用が出ていない
という状態です。


精神科で使われているお薬の効果は主に2つです。
1、興奮して暴れている人を落ち着かせる
2、抑鬱状態がひどい人を元気にさせる

双極性障害(躁鬱病と言えば分かりやすいでしょうか?)の患者さんの場合、躁状態の激しいときには1の薬を、鬱状態の酷いときには2の薬を使ったりするわけですが。
見てお分かりの通り1と2のお薬は正反対の効果を持つお薬ですから。
1のお薬が効きすぎると、躁状態の人が一転ひどい鬱状態に、2が効きすぎると鬱状態の人が一転手の付けられない躁状態になってしまうことだってありえるわけですよ。
だからといってお薬の量を少なくしすぎると、全く効果が出ないと言うことになる。

どのお薬が効くか?
どれくらいの量が効くか?
それは、人によって本当に様々です。
同じ人であっても、その日の体調で異なったりします。

1のタイプのお薬の場合、暴れたり興奮している人を落ち着かせる効果があるということは、いわゆる「鎮静効果」があるわけですから、効きすぎると暴れないどころか体がぐったりしてまともに起き上がれなくなります。
それでも無理に起き上がろうとして、転倒すればケガに繋がります。
体中の筋肉が弛緩して、大小が垂れ流しになったり、逆に自力で出せなくなったりします。
よだれが垂れっぱなしになり、飲み込む筋力も乏しくなるので、食事や自身のよだれで誤嚥窒息や誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
人は呼吸するにも筋肉を使っていますので、筋肉がまともに働かなくなると言うことは、突然の呼吸停止という可能性も出てきます。

最悪なのは、これほどまでに「薬に体を取られている」のに、精神症状は全く落ち着いていなくて、自分のよだれに溺れながら「うおお、俺は天皇やぞ~! これから各駅を爆破しながら皇居に帰るんや~! だからここから出せ~!」
…みたいなパターンです。

逆に、精神症状は比較的鎮静が掛かっているけれど、体はそんなに取られていない
(そんなに、です。全く取られないということはあり得ません)
というのが、最高のパターンです。

より少ない試行回数でこの最高パターンに辿り着ける先生が、お薬調整が上手い先生
と言えると思います。
逆に言えばどんなに上手な先生でも、最初から一発でこの最適解を出せる人は居ません。
なぜならさっきも書いたように、お薬の効き具合は人によって千差万別だからです。

誤解の無いように書き添えますが、勿論、精神科の治療とはお薬の投与だけではありません。
作業療法とか行動療法とか、色々あります。
しかし実際問題として、ある程度病状が落ち着いていないと作業療法だって出来ません。作業療法が出来るレベルにまで病状を落ち着かせるのに、お薬の力が必要だったりします。



どうですか?
精神科の先生は、お薬調整が主な力の見せ所。
なんか地味。と思いましたか?
精神科の治療というと、催眠術とか、ロールシャッハみたいななんか怪しげなテストをするとか、思ってましたか?
正直に言いますと、私自身子供の頃は、精神科ってそんなイメージでしたよ。
きっと小説とかドラマのイメージでしょうね。
「記憶喪失」とか「多重人格」の患者さんが居て、それをドクターが催眠術とか駆使して治していく…みたいな。
実際には、自分が看護職として働いていた間に、「多重人格」の患者さんは1人も居なかったし、「記憶喪失」の患者さんは1人だけでした。