※最初にお断りしておきます。私は数年前に離職しており現役看護職ではありません。知識や情報が現行より古い可能性があります。数年前はそうであった…ということで読んでいただければと思います。


精神科病院の入院形態は、

1、任意
2、医療保護
3、応急
4、措置

主にこの4つに分かれています。

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1、任意入院
患者さん本人が同意しての入院です。
一般の病院での入院といったら、ほぼ全てこれだと思いますが、精神科においては、この形態の入院はとても少ないことはお分かり頂けると思います。
だって、自分の病状を理解して自分で入院しようと決められる程度の病状なら、そもそも精神科に入院する必要はありません。通院で十分です。

【具体例】
統合失調症で入院歴のあるA子さん。
病状がよくなり退院後は定期的に通院しながら専業主婦をしていた。
しかしここへ来てお姑さんとの同居の話が出た。
姑は早く子どもを作れとことあるごとに言うのでA子さんは苦手に思っている。
A子さんも子どもが欲しくないわけではないが、自分は精神科の強い薬を飲んでいることもあり、妊娠にためらいがある。
同居のことを考えている内に、どんどん気分が落ち込み、自分で病気が悪化してしまうのではないかと不安になった。
ドクターに相談すると、「それじゃ休養もかねて1、2週間入院しますか?」
と言われ、同意し、任意入院となった。

…みたいなケースです。
ドクターの言う「休養目的で」というのは、「話を聞くと確かに今あなたのおかれた状況は病気には良くない感じだよね。少しの間逃げ場として病院を使ったらいいよ」という意味あいですね。
なお任意入院の場合、本人が「退院します」と言えば即日退院出来ることになっています。



2、医療保護入院
本人は入院に同意していないが、保護者の同意が取れたケース。

【具体例】
先の例で出たA子さん。
結局お姑さんと同居となり、お姑さんが反対するため精神科の薬の服用を止めたため、病状悪化。
夫の浮気を疑い、夫の知人や会社に電話を掛けまくったり、隣家に上がり込み隣家の奥さんに暴力を振るおうとしたりする。
困った夫が相談に来院。夫の兄弟いとこ3人が協力し、暴れるA子さんを何とか病院まで連れてくる。夫の同意により医療保護入院となる。

医療保護入院の制度的な弱点は、保護者が「退院させます」と言えば、本人がまだ病院に居たいと言っても、ドクターがまだ退院は早いのではと思っても、退院させなければならないことです。
保護者が必ずしも疾患や患者さんに理解があるわけでは無いため、そういうパターンもあり得るのです。



3、応急入院
本人の同意は取れない。
保護者の同意も取れない。
自傷他害のおそれはないけど、入院は必要だよね、という場合です。

【具体例】
深夜。24時間スーパーで堂々と万引きしていた女性。
警察が呼ばれたが女性は
「私は神から何を取ってもいいと言われています」
とニコニコしている。
警察が手荷物等をあらためさせてもらったが、身元が分かるようなものは一切持っていなかった。
攻撃性はないものの、明らかに尋常ではない言動のため、パトカーに乗せられて深夜来院。応急入院となる。

深夜帯は、病院側も警察側も人手が足りません。
大抵は翌朝以降にマンパワーで身元が判明します。
同意してくれる保護者が見つかった時点で、医療保護入院に切り替えるわけです。

なお、以前は医療保護入院は保護者が来院して書類にサインしてくれないと駄目、みたいな厳しい感じでしたが、途中から緩くなり、電話でも同意がとれればOKとなりました。遠く離れた親戚でも電話で同意がとれれば医療保護入院でOKとなるため、応急入院のケースは以前より減りました。



4、措置入院
本人の同意がなくても、保護者の同意がなくても、お上の一存で発動できる入院形態です。
自傷他害のおそれあり…つまりこの人をこのまま放置しておくと本人もしくは周りの人がとっても危険だぞのっぴきならないぞ、という場合です。

【具体例】
路上でナタを振り回し暴れている男が居ると通報を受け警察が出動。
複数のけが人が出ており、本人も流血している。
「エイリアンは俺が差し違えても倒す! 俺が地球を守るんだ!」
と男は叫んでおり、警官にも斬りかかる。
警官複数名に押さえられパトカーで来院。
精神保健指定医2名による診察の結果、必要と判断され都道府県知事の権限にて措置入院となる。

なお措置入院の亜種で緊措というのもあります。
緊急措置入院です。
措置入院かどうかを決めるには、上記のように「精神保健指定医」が2名必要です。
(精神保健指定医が何かを平たく言うと、ある程度経験を積んで研修も受けた精神科のドクターと言うことです。新米じゃだめよということですね。)
さて、夜間など小規模の病院だと、精神保健指定医が2人いないことは普通にあり得ます。
その場合のために、精神保健指定医1人でもいいよ、その代わり72時間を限度にしてね、という措置入院形態がキンソです。
翌朝になれば他のドクターも出勤してくるでしょうから、2名揃った時点であらためて正規の措置入院の手続きをとることとなります。


この措置入院、実は入院費が4つの入院形態の中で最安です。
お上の権限で入院治療を受けさせるため、その費用もお上が持つということになっているからです。
具体的には、健康保険が適用されない自己負担分を、措置入院の場合はお上が払います。
そんな風に出費も痛いし、不必要に長く人を束縛するのは人権的にあれなので、お上は「措置入院はなるべく短く済ませてね」というスタンスです。
なので、数日間の措置入院の間に病状がある程度落ち着いてきたら医療保護入院に切り替えるのがよくあるパターンなのですが、ここで保護者の頑なな拒否にあうことも、よくあるパターンです。

「措置入院のままでいいです! 医療保護だと入院費が払えません!」」
「もう一生措置入院で置いてやって下さい! あの人のために身内がどんだけ恐い思いや迷惑をしたか!」

そう言って懇願する家族、親族。

でも原則措置入院は極短期間のものなのです。