漫画は、BBAになってからは殆ど読まなくなりましたが、若い頃は結構読んでいました。

とりわけ好きだった漫画家さんの中に、山岸凉子さんがいます。
私が読んでいたのはん十年前なので、今でも現役でいらっしゃるのかどうかは分かりません。

絵柄も内容もちょっとアクの強い漫画家さんで、胸くそ悪い作品がいっぱいある(褒め言葉です)のですが、中でも印象強いのが表題の『黒のヘレネー』です。

山岸作品の中には、もっと規模の大きいのも評価の高いのもあるのですが、自分は何故かこの読み切り作品が印象強いです。
それだけこの作品が胸くそ悪い(褒め言葉です、しつこいですが)のかなと思います。

※以下、作品のねたばれを含みますので、見たくない方はスルーでお願いします。



ヘレネーは確かに性格が悪いです。
人はどうでも良くて自分のことしか考えてません。
自分が美人だということをよく自覚しています。
美人の自分はそうでない人々より価値が高いと思っています。

ですが、絶望的な性格の悪さかと言ったら。そこまででも無いんですよね。
多かれ少なかれ人間て自分本位ですからね。
この程度の性格の悪い人、学校や職場でまあ1人は居るよねー、くらいのレベルだと思うんですよ。

では、ヘレネーの何がいけなかったのか? 何が彼女の罪だったのか?
何故。彼女は不幸な最期に至ったのか?
何故。彼女は周りを巻き込み、不幸にしてしまったのか?

それは、彼女が絶世の美女だったからです。
いわゆる「傾城」ですね。
彼女を奪い合って国同士が戦争を起こしてしまうほどに、彼女が美しかったからです。

胸くその悪さの原因は、ここだと思うです。
親ガチャ子ガチャなんて言葉が最近ではありますけど、美しく生まれるか残念に生まれるかは、ガチャですよね。
ガチャの結果を罪と言われても、じゃあどうしたら良かったのと考えても、どうにもできませんよね。

この作品にはヘレネーの他に主人公の女性がいたと記憶していますが、読んだのがあまりに昔なので、記憶間違いかもしれません。その女性は主人公ではなく狂言回し的な位置づけで、作品は神の視点で描かれていたかもしれません。
とにかく、その女性はあまり美に恵まれていなかったため、ちやほやされずに育ってきたので、ちょっとひがみっぽい性格です。
でも救いようのないほど性格悪いって言うレベルでもないんです。

つまり、ヘレネーも主人公の女性も、そこまで性格悪くもないし、罪深くもないんです。
その他の登場人物も、そんな極悪な人は居なくて、みんな一生懸命生きてるだけです。
でも、不幸になります。



完全悪が居て、その悪が倒される物語だと、読み手は安心するし、カタルシスを覚えます。
登場人物が、最初はへっぽこだけど、たゆまぬ努力で強くなっていったりすると、読み手は達成感を感じます。
そういう、読み手が気持ちよさを感じる部分が一切ない。
それが『黒のヘレネー』です。(くどいようですが褒めてます。)